ピーターの話
20代の頃、ミュンヘンのユースホステルにいた時の事です。ドミトリーの部屋で、スコットランドの青年、ピーターと知り合いました。
ひょうひょうとした彼は、シャワーを浴びた後に裸でうろついて「人々を助けないと」と、いつもつぶやいていました。
僕は、彼がお金を持っていない事を知っていたので「助けが必要なのは君やろ」とつぶやいていました。そんな彼を、クリスチャンなのかなと思ったりしていました。
ある日、彼がリコーダーを持っているのに気づいたので、一文無しの彼をさそって、路上で稼ぐことにしました。
彼と一緒に橋の中程まで行き、欄干を背にしてしゃがみ込みました。僕も初めての経験だったのですが、なぜかこういう場所がふさわしいような気がしました。
愛用のハーモニカを吹き出しながら、横目で彼にもうながすと、はにかみながらリコーダーを口にあてるのですが、一度も音を出しませんでした。それでも一日食べる分ぐらいのコインが、前に置かれた缶に入りました。
数日がたち、彼の誕生日がきました。僕は、最後のコインを握りしめた手をポケットに突っ込み、酒屋の店先を30分程行き来した後、ワインを一本買いました。そしてその夜、彼と一緒に飲みました。
数日後、僕の誕生日が来たときに彼が言いました。
「ごめん、僕にはあげる物が無い」
繊細な彼に気を使わせたくなかたので、ピアノを弾いてもらう事にしました。彼のリュックに、楽譜が入っているのを知っていました。
ユースホステルの地下へおりて行くと立派なグランドピアノがありました。
たどたどしい指で弾き終わったあと、無言で僕に手渡したノートの切れ端には、彼の詩が書かれていました。
その詩を使って、僕は今も作品をつくり続けています。
あの時、初めて聞いた曲は、いまも口ずさむ事が出来ます。
リクオ
I think we think too much
And fail to see
In simple things reflections of eternity
We are cut off from our own life sources
And love is lost, a source of
Joy and Ecstasy
Peter Ryth
「主よ人の望みの喜びよ」J.S.Bach