淡い青春
其の1
Mは、芸大の学生だった時、京都に住んでいました。
その日Mは、夜中まで友人と飲み歩いていました。
最後に入ったお寿司屋で、そろそろ帰ろうかという時に、Mは折詰のお寿司を注文しました。
上にぎりを詰めてもらい、板前さんが蓋をしようとした時です。
Mは、ためらいながら言いました。
「あのー…。のりをハート形に切って、乗せてもらえませんか」
板前さんは、にやっと笑いながら大きなハートを器用に切り抜き、お寿司の上にのせました。
真夜中に、お目当ての彼女のアパートに着きました。
「いっしょにお寿司食べない?」と、Mが折詰を差し出しました。
「うわー、おいしそう」と、彼女が蓋を開けました。
でも、ハートがどこにも見当たりません。
酔った頭をかかえながら、Mがふとゴミ箱に目をやると、折詰の蓋の裏に、大きなハートがべったりと張付いていました。
其の2
Tが、ドイツのユースホステルに長期滞在していた時の事です。
Tは、中庭をはさんだ向いの部屋で事務の仕事をしている女性が好きでした。
思案したあげく、Tは彼女に手紙を書き、紙飛行機にしました。
2階から、狙いをさだめて投げると、紙飛行機は開け放された窓から向かいの部屋に入り、彼女の足元に落ちました。
こんなにうまくいくとは思っていませんでした。
彼女は、紙飛行機を拾い上げて、ゴミ箱に入れました。
リクオ